大雨と下水道の関係
パリ五輪もいよいよ後半戦!
連日、熱戦の様子が伝えられていますが、競技以前に話題となったのが、トライアスロンの会場となるセーヌ川の水質ではないでしょうか。
今回は、セーヌ川の水質改善策などについて調べてみました。
|
1.河川汚染(大雨と下水道の関係) |
一般的に、川を汚す原因として思い浮かべるのは、工場などからの産業排水のイメージが多いかもしれません。
しかし、実際には1970年以降、国の規制強化により、工場排水は河川の汚染の主たる原因ではなくなりました。
実際には、私たち、一般家庭から排出される生活排水が主な原因です。
各家庭からの、トイレ、キッチン、お風呂場などから流される排水が現代の河川汚染の大きな原因なのです。
その中でも、トイレの排水には糞便が含まれており、そこに細菌がたくさん潜んでおります。
でも、生活排水は下水道処理されるのでは? という疑問がわきますよね。
都市部には下水道が整備されており、生活排水は処理されてから川へ戻されるはずです。
確かに通常であれば、問題はありません。
しかし、大雨が降った場合は話が変わってきます。
大雨になると、通常は生活排水しか流れない下水道管に、雨水も流れ込み、処理場がパンク寸前になってしまうことがあります。
そこで、処理場がパンクしないように一定量を超えると生活排水と雨水が混じった水が直接、川へ流れ出る仕組みになっているのです。
つまり、大雨が降ると、トイレに流した排泄物が処理されずに河川に流れてしまうわけです。
|
2.下水道の分流式と合流式 |
では、そもそもなぜ下水道管に雨水が入ってくる構造になっているのでしょうか?
下水道には雨水を分けて処理する「分流式」と、一緒に流す「合流式」の2種類があります。
一般的に分流式の方が環境負荷が低い為、近年は分流式が主流になっています。
しかし、古くからある都市部、パリやロンドン、東京などでは、下水道整備が早く、19世紀に行われたため、多くの場合が合流式なんです。
なぜなら、当時は都市の浸水対策として下水道が整備されており、大量の雨が降った場合は、都市部の浸水をさけるために、雨水を川へ逃がす必要があったためです。
特に、19世紀はペスト対策として、街の中から速やかに汚水を除去し、処理する事が目的でしたので、大雨時は下水処理をしなくても、大量の雨水で排水を希釈できるから大丈夫、という考えだったようです。
(出典:東京都水道局)
|
3.パリの改善対策とは |
パリは先程述べたように合流式ですので、大雨が降ると生活排水が河川に流れてしまって、汚染された河川になってしまいます。
抜本的な解決をするには下水道を分流式にする必要がありますが、その為には膨大な経費がかかります。
そこでパリ市は費用14億ユーロ(日本円でおよそ2300億円)をかけて対策をしてきました。
パリ市の取った主要な対策は、市内に建設された2基の巨大タンク(地下貯留施設)です。
このタンクには4万6000立方メートルの水が貯留できるとのことです。
豪雨の間は一時的にここに生活排水をためて、セーヌ川への流入を防ぎます。
そして雨が収まったら、下水処理場に水を送り、処理をした後にセーヌ川へ流す、という仕組みです。
それでも、開会式が行われた26日からの大雨で水質が悪化しているのですから、水質が雨量に左右されることには変わりありません。
|
4.水質対策と下水道の持続 |
オリンピックのための水質改善はもちろん大切ではありますが、重要なのは今回の対策が、一時的なものではなく、パリ市民のためであることです。
下水道システムを改善し、セーヌ川の水質改善をしようという姿勢が見えます。
下水道システムはオリンピックのためにあるわけではありません。
「まちを浸水から守る」、「水環境を守る」」、「衛生的な暮らしを守る」などして、市民の暮らしを支えています。但し、下水道の維持管理には莫大な費用がかかり、施設更新のタイミングで自治体財政に大きな負担が掛かります。これは多くの都市が共通して抱える課題です。
日本全国に約47万キロの下水道管が布設されていますが、このうち、標準耐用年数50年を経過した管路は2017年に約1万7000km、2027年には約6万3000km、2037年には約15万kmになると予測されています(国土交通省)。下水道管路に起因する道路陥没は年間4000~5000件発生(日本下水道協会)。そのため、今後は老朽化対策のための使用料の値上げも検討されることになります。
|