■水ビジネスに参入、自治体の動き
アジアや中東を中心に水の需要が伸びる中、多くの都市が水道管からの水漏れや
料金の徴収に悩んでいる。世界屈指の漏水率の低さや料金徴収率の高さを誇る東京
の水事業。この水道事業の技術を海外に売る「水ビジネス」に本格的に乗り出している。
(出所:asahi.com)
浄水場から各世帯の蛇口までの漏水率は、アジア主要都市は平均30%、東京の約
10倍にのぼる。
都の「売り」は、漏水防止と料金徴収のノウハウ。都水道局によると、東京の漏水率は
終戦の1945年は約80%だったが、98年は8%、2008年には3.1%になった。特殊
な鋳鉄管への交換を進めたほか、地中の管から水が漏れる音を探って修理を続けた成
果だという。
水道事業を支える料金の徴収率も高く、都の給水世帯は約687万世帯あるが、少な
くても89年以降、徴収率は99.9%が続いている。
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■市場規模から見た水ビジネスの技術力
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水ビジネスの市場規模は世界で100兆円といわれている。水ビジネス市場は次のよう
なサブ市場からなりたつ。
・キーデバイス(膜ろ過、オゾン処理)
・プラント建設(ポンプ、パイプなど)
・運転管理(日常管理など)
・メンテナンス(緊急対応、リスクヘッジ)
・顧客管理(料金徴収、クレーム対応など)
・コストダウン(漏水対応、ノウハウなど)
・補修・更新
・資金調達
・事業経営
・契約(長期契約のリスクヘッジ)
・営業
この中で、キーデバイスの市場規模は1兆円、キーデバイスとプラント建設の市場規
模は10兆円で、上記すべての市場規模は100兆円に達する。
この水ビジネス市場において、日本勢は「キーデバイスの技術力」に強みがあるとい
われている。 キーデバイスは水ビジネスのキーであることは確かであり、その技術力
には膨大な蓄積が必要となる。
しかし、このキーデバイスやプラント建設の市場規模はそれほど大きいものではない。
欧米勢が強みを持つメンテナンスから顧客管理、資金調達といったマネジメント的な市
場こそが規模が大きく、日本勢がどのように技術力を磨いたといしても、収益性に苦戦
が強いられるのである。
(出所:「日本化学会」)
世界において上下水道の民営化市場の7割を寡占しているのはグローバル巨大水企
業3社である。その売り上げをまとめてみると、日本の企業との桁違いな実力が実感される。
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企業名 |
水部門売上 |
水関連の従業員 |
給水人口 |
1.スエズ
(フランス) |
1兆5千億円 |
72,000人 |
1億2,500万人 |
2.ヴェオリア
(フランス) |
1兆6千億円 |
78,000人 |
1億800万人 |
3.テムズウォーター
(イギリス) |
5,740億円 |
15,000人 |
7,000万人 |
(2006年)(出所:下水道機構) |
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■日本の水ビジネスの課題と展望
日本企業や自治体は、ろ過膜技術、生物処理、科学技術による水浄化技術、水道
メンテナンスにおける世界トップレベルの漏水率といった、優れた技術を持っている。
しかし、日本の問題は、そのハード面の強さは民間が持ち、漏水率の低さを維持する
メンテナンス能力は自治体が持っているという状況にあるということ。
つまり、欧州水メジャーのように包括的なサービスを提供できるような存在が日本には
存在しないのである。
水ビジネスの世界で最も収益を上げるのはサービス部門であり、使用するごとに上がっ
てくる水道使用料が大きな収益となる。下水処理についても同じである。利用者が使用
しつづけるかぎり、安定して収益が上がるのである。
インフラの整備、コアデバイスの提供は言ってみれば「売り切りビジネス」であり、水ビジ
ネスの中では大きな位置を占めるものではない。
日本の場合、このサービス部門のノウハウが自治体に集積されていることが大きな問
題なのである。
現在、自治体と企業がコンソーシアムを組み、海外水ビジネスへの進出へ動き出してい
る。サービスの質が高いといわれる自治体の水道事業においては、その高コスト体質をい
かにして下げていくかが課題であり、ノウハウの民間との共有により、より効率化されてい
くことが海外水ビジネスにおける成功には必要となるであろう。
21世紀は水の世紀と言われています。
わが国のすぐれた水道事業の技術を、適切に活用することで世界の衛生的な水の
確保の問題解決に貢献することが出来ます。もとより国際社会においては、水もまた
ビジネスの対象であり、関係者の連携と政府の一層の後押しによって、水環境の保
全と水ビジネスの振興をさらに進めていく必要があるでしょう。
*内容は「環境省−環境白書」より一部抜粋。
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